今や認知症は65歳以上の高齢者の5人に1人が患う時代です。
年代別の有病率は
| 年代 | 男性 | 女性 |
| 65~69歳 | 2.8% | 3.8% |
| 70~74歳 | 3.9% | 4.9% |
| 75~79歳 | 11.7% | 14.4% |
| 80~84歳 | 16.8% | 24.2& |
| 85~89歳 | 35.0% | 43.9% |
| 90~94歳 | 49.0% | 65.1% |
| 95歳以上 | 50.6% | 83.7% |
この表から男女とも75歳を境に急増していることが分ります。。
これだけ認知症が増えたのは、医学や医療の進化によりがんや心血管疾患による死亡が減少し、認知症になるまで長生きするようになったためとも言えます。
70歳過ぎたら、認知症になる前に相続のことを真剣に考える必要があります。
一方、寿命を見てみると
| 男性 | 女性 | |
| 平均寿命 | 81.0歳 | 87.1歳 |
| 健康寿命 | 72.5歳 | 75.5歳 |
| 差 | 8.5年 | 11.6年 |
健康寿命も75歳程度となっており、認知症発症の年代と一致しています。平均寿命と健康寿命の差は人から介護を受けて生き続ける時間となります。男性は8年以上、女性では11年以上の長い年月を介護される生活を強いられます。
では認知症ってなに?
認知機能ということばがあります。新しく認識した情報が、過去に蓄積した記憶と照らし合わせて適切に判断し行動するために必要な機能です。具体的には
「学習・記憶する機能」
「混在する情報の中から必要なものに注意を向ける機能」
「目標に向かって計画を立て決めたことを最後まで実行する機能」
「人の言葉を理解し自分の気持ち・考えを伝える言語機能」
「五感などで状態などを理解し一連の意味ある行動を行う知覚・運動機能」
「社会の中で自分や他人の存在を理解する社会的認知機能」などを指します。
このうちのどれか一つ以上の機能が障害により、ある局面で適切な行為ができなくなるのが認知症です。
4つのタイプの認知症
| 疾患 | アルツハイマー型認知症 | 血管性認知症 | レビー小体型認知症 | 前頭側頭型認知症 |
| 対象 | 女性に多い | 男性に多い | 60歳以降男性 | 65歳以前の発症 |
| 発症 | 穏やか | 急速 | 穏やか | 潜行性 |
| 進行 | 緩やか | 発作の度に階段状 | 緩やか | 緩やか |
| 記憶障害 | 初期から出現 | 軽度 | 初期は軽度 | 比較的良好 |
| 運動障害 | 重度になるまで出現しない | 精神症状に先行して出現 | パーキンソン病様症状、転倒多い | ある程度進行するまで問題ない |
| 精神症状 | もの盗られ妄想 | 意欲・感情障害 | 幻視・幻聴、失神 | 自発性低下、無関心 |
- もっとも有名なアルツハイマー型認知症
脳内にアミロイドβ蛋白やタウ蛋白が蓄積し、神経細胞ネットワークが破壊されて発症すると言われています。年齢は65歳以上で高齢化するほど増加します。男性より女性に多い特徴もあります。高血圧、糖尿、脂質異常等の基礎疾患があるとアミロイドβが蓄積しやすい。
初期の症状は目立たないが、予定をすっぽかす、食べたものを思い出せない、最近の出来事をすっかり忘れてしまうなどの近似記憶障害があらわれます。
着替えや食事に支度ができない、面倒になる。言語障害や見えているものを認識できない、やり方を忘れ正しく行動できないなどに進行します。そして、物を盗られた、家族から迫害を受けているといった妄想、徘徊や睡眠障害も出るようになります。
- 血管性認知症
脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血等)による血管の詰まりが原因。
血管の詰まりが起こった部位により、手足のまひや言語障害を起こすが、症状が出ないこともある。
この場合、神経ネットワークの部分的な障害を起こしており、認知症につながることがあります。
脳卒中から認知症発症の時間差が小さいことが特徴の一つ。脳卒中を再発するたびに重症化することがあり、症状の軽い、重いが繰り返し、まだら認知症と呼ばれることもあります。
歩行障害、嚥下障害、意欲・遂行機能障害を伴います。
本人が認知症と自覚することが多いのも特徴です。
- レビー小体型認知症
レビー小体という蛋白質が脳内にたまり神経ネットワークを破壊することにより発症するものです。
65歳以上の男性に多く、60歳以下ではまれにしか発症しません。
認知機能が低下した時は会話もできませんが、健常な時もあり、良い時と悪い時が交互に現れるため認知症と思われないことがあります。
記憶障害、嚥下障害などを起こします。また幻視、幻聴、錯視などもあり、睡眠中に怖い夢を見て大声を出したり手足を激しく動かしたりすることもあります。
レビー小体はパーキンソン病の原因でもあり、レビー小体型認知症の人はパーキンソン病と同様の症状が出ることがあり、レビー小体が脳の一部にたまったときにパーキンソン病となり、広い範囲の神経細胞を破壊されるとレビー小体型認知症となります。
- 前頭側頭葉型認知症
脳の前頭葉や側頭葉といった限られた範囲に変形や萎縮が起こることで発症します。
前頭葉は人格・性格の形成や言語発出に関係し、側頭葉は人格・性格に関係する言語を理解する働きをします。50代、60代の若い年齢層に多いのも特徴です。
行動障害として遂行機能障害、自発性低下や同じ行動を繰り返すなどが現れます。
言語障害としては、言葉を発する、自ら話をする、人の言葉を理解する、話の意味を理解するなどといったことができなくなります。
記憶、物忘れはあまり目立ちません。万引きや信号無視などが現れます。 症状が進行するにつれて無気力・無関心になり、自分から行動する意欲が無くなり、初期には目立った反社会的な行動も目立たなくなります。
認知症14のリスク因子
イギリスの権威ある医学雑誌「ランセット」の報告によると、14の認知症のリスク因子をあげています。これは、因子を無くせば認知症の発症をなくせる、または遅らせることができるというものです。
| 年代 | リスク因子 | リスク |
| 18歳未満 | 教育機会の不足 | 5% |
| 18~65歳 | 難聴 高LDL 抑うつ 頭部外傷 運動不足 糖尿病 喫煙 高血圧 肥満 アルコール摂取 | 7% 7% 3% 3% 2% 2% 2% 2% 1% 1% |
| 65歳以上 | 社会的孤立 大気汚染 視力低下 | 5% 3% 2% |
ではリスク因子をなくすためには どうすれば良いでしょう。
リスクの合計は45%で、認知症の要因と疑われるのは、まだ全体の45%しかつかめていないということですが、逆に45%は減少または発症を遅らせる可能性があるということを示しています。
最も大きな因子が驚いたことに難聴です。難聴がなぜこんなにリスクが高いのでしょうか?
音声は脳に直接かつ大量の情報をもたらすため脳への刺激が非常に大きい。この刺激が途絶えると脳の萎縮が進む。人とのコミュニケーションが取りづらくなり脳を使う機会が減り、また会話を避けるようになって社会的孤立や抑うつ状態に陥る。これが認知症のリスクを高めている原因です。
難聴には加齢によるものと騒音性のものがあります。加齢によるものは防ぎようはありませんが、補聴器で対応することが勧められています。騒音性については産業衛生の面からの対策として騒音レベルを下げる対応やイヤーマフなどによる暴露を避けることが必要です。またイヤホンで大音量で音楽を聴くなども大きな要因ですので、適切な音量の使用が大切です。
視力の低下は2%とリスクは低いですが、脳への直接的大量の情報ということでは難聴と同様の経過を辿りやすいといえます。白内障は手術による改善が認められています。緑内障については早期発見により治療始めれば進行を遅らせることが大切です。
高LDLのリスクも7%と高くなっています。LDL(悪玉コレステロール)は肝臓で作られたコレステロールを全身に配る役割があり、HDL(善玉コレステロール)は全身から余ったコレステロールを肝臓に戻す役割があります。LDLが必要以上に多くなると全身の細胞では十分足りており余ってしまいます。行き場を失ったコレステロールは血管内で酸化劣化し、プラークとして血管壁に沈着します。プラークができると血栓を作り、これが剥がれて脳に到達すると脳血流の低下を招き脳神経ネットワークにダメージを与えるということです。脳内に過剰なコレステロールがあるとアミロイドβの蓄積を促すともいわれています。
健康診断でLDLが高いと言われた時は、認知症が始まっていると考えるべきです。健康診断の結果を放置せず治療を始めることが大切です。生活習慣の改善や服薬治療を始めます。また治療を始めた人は自己判断で服薬を止めたりすることは厳に慎まなければなりません。
頭部外傷から血管性認知症に進む因子も大きいです。交通事故、労働災害、スポーツ外傷などが原因となります。これらに対してはヘルメットやヘッドギアの着用が必須です。スポーツで脳震盪を起こしたときは、即競技から抜け安静に保つことが重要です。労働災害面では転倒転落防止のハード面の対策と過重労働の防止が重要です。
糖尿病や高血圧は動脈硬化を進行させ、脳血流の低下や脳出血をおこし、血管性認知症のリスクを高めます。これらの生活習慣病は早期からの治療継続が大切です。
高血圧の治療薬が糖尿病の発症率を低下させる報告があります。また収縮期血圧を5㎜Hg下げると、心不全 13%、脳卒中 13%、糖尿病 11%など発症率を下げるという報告もありますので、服薬治療も継続することが必要です。
肥満や運動不足のリスクも挙げられています。この対策は糖尿病や高血圧の改善にも直結しています。
ウォーキングやジョギングなど有酸素運動に加え、筋力トレーニングなどエネルギー消費を増やすことも勧められています。1週間に中程度の運動を150分、高強度の運動75分を目安として示されています。日常的な運動として、エレベーターより階段を使う、通勤時一駅分歩く、家事など立ち仕事を積極的に行うなど習慣化すると良いでしょう。
ランセットの認知症リスク因子は、中年期(18歳~65歳)に多くが挙げられていますが、70歳を過ぎたあなたも治療や生活習慣を改善して、認知症の発症を遅らせる努力を続けていただきたいと思います。